会社を経営していると、ふと立ち止まって考える場面があります。
「自社は何のためにあるのか」
「これからどこを目指すのか」
「社員にどんな考え方で動いてほしいのか」
こうしたことを言葉にしたものが、ミッション・ビジョン・バリューです。
最近は、採用や人材定着、組織づくり、事業承継、第二創業などの場面で、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を見直したいという相談も増えています。
一方で、せっかく作っても、額に入れて飾るだけになってしまう会社も少なくありません。
大切なのは、きれいな言葉を作ることではなく、会社の方向性をそろえ、日々の行動につなげることです。
名著『ビジョナリー・カンパニー』でも、企業の理念や価値観を明確にし、それに共感する人材が集まる組織の強さが示されています。
今回は、これからミッション・ビジョン・バリューを作ろうと考えている経営者の方向けに、基本的な考え方を整理してみます。
はじめてのミッション・ビジョン・バリュー
1、ミッション
ミッションとは、会社の存在意義のことです。
「なぜこの会社があるのか」という問いに答えるものです。
ここで気をつけたいのは、事業内容の説明だけで終わらせないことです。
たとえば、「当社は○○を製造しています」「○○を販売しています」という表現は、事業の説明にはなりますが、存在意義そのものではありません。
ミッションでは、もう一歩踏み込んで考えることが大切です。
「なぜ、その事業をしているのか」
「お客様や社会に対して、どんな価値を果たしているのか」
そこまで言葉にしていく必要があります。
顧客の視点から見た存在意義を明確にすることが大切です。
たとえば、単に「弁当を販売する会社」ではなく、
「忙しい地域の人に、安心して食べられる食事を届ける」
という表現になると、存在意義が見えやすくなります。
ミッションは、会社の土台になります。
この土台がしっかりしていると、社員も「自分たちの仕事には意味がある」と感じやすくなります。
反対に、言葉だけ立派でも中身が伝わらなければ、社内には響きません。
大事なのは、かっこよさよりも、社員や関係者が納得できることです。
「うちの会社は、そのために頑張っているのか」と腹落ちする言葉になっているかを意識したいところです。
2、ビジョン
ビジョンとは、会社が将来目指す姿のことです。
「これから、どこに向かうのか」を示すものです。
ビジョンを考えるときに大切なのは、できるだけ具体的に描くことです。
ビジョンとは、会社が目指す最終到達点です。
ぼんやりした理想ではなく、社員がしっかりとイメージできる未来になっていることが望まれます。
たとえば、
「もっと良い会社になる」
では弱いです。
それよりも、
「地域で最も信頼される会社になる」
「お客様から継続的に選ばれるブランドになる」
といった表現のほうが、目指す方向がわかりやすくなります。
また、ビジョンは「困りごとをなくす」だけで終わらず、「何をつくりたいのか」を意識することが大切です。
たとえば、
「クレームを減らしたい」
ではなく、
「お客様が安心して任せられる対応を実現したい」
という考え方です。
ただし、ビジョンだけを語っても現実離れしてしまいます。
未来を描くのと同じくらい、今の現実をしっかり見ることも大切です。
現実ばかり見ると前に進みにくくなりますし、理想ばかり語ると絵空事になります。
だからこそ、理想の未来と今の現実、その両方を見ることが必要です。
この差があるからこそ、会社は前に進む力を持てます。
3、バリュー
バリューとは、会社が大切にする価値観や行動基準のことです。
「どう行動するのか」「何を判断のよりどころにするのか」を示すものです。
ミッションが会社の存在意義、ビジョンが将来の姿だとすると、バリューは日々の動き方を定めるものです。
たとえば、
「誠実」
「挑戦」
「感謝」
といった言葉がよく使われます。
ただ、言葉を並べるだけでは実際の行動につながりません。
大切なのは、その言葉がどんな行動を意味するのかをはっきりさせることです。
たとえば、
「誠実」とは、悪い情報ほど早く共有すること
「挑戦」とは、失敗を恐れず改善提案を出すこと
というように、具体的にしていくことが必要です。
また、バリューは多すぎないほうがよいです。
たくさん並べると覚えにくくなり、結局どれを大事にするのか分かりにくくなります。
数は絞り、優先順位も考えたほうが実践しやすくなります。
さらに、バリューは実際に守られてこそ意味があります。
掲げていても、経営者や管理職が守らない、評価に反映されない、会議でも話題に出ない、という状態では、ただのきれいごとで終わります。
社員一人ひとりの価値観と、組織の価値観を調和させることも大切です。
4、社内に伝えるために
ミッション・ビジョン・バリューは、作ることよりも、社内に伝えて根づかせることのほうが難しいものです。
まず大事なのは、社員を巻き込むことです。
経営者だけで決めて発表するよりも、意見を聞いたり、話し合う場を設けたりしたほうが、理解も深まります。
人は、自分が関わったものには納得感を持ちやすいからです。
また、経営者自身が行動で示すことも欠かせません。
大きな変化を一気に起こすのは簡単ではありませんが、小さなことでもトップが率先して動くと、「本気で取り組むのだな」ということが伝わります。
さらに、一度発表して終わりにしないことも大切です。
ミッション・ビジョン・バリューは、繰り返し話題にしていかなければ、すぐに忘れられてしまいます。
朝礼、会議、面談、研修、社内報など、いろいろな場面で少しずつ伝えることが必要です。
社内で何か判断に迷う場面があれば、
「この判断は、うちのビジョンに合っているか」
「この行動は、うちのバリューに沿っているか」
と確認する習慣をつくると、言葉が生きてきます。
また、社内で起きた出来事について、「どのMVVに基づいた行動だったのか」を考える勉強会を行うのも有効です。
スローガンを作るのも一つの方法ですが、中身が共有されていないまま言葉だけ作るのは危険です。
誰も実践していないスローガンは、かえって白けた空気を生むことがあります。
5、実践のために
最後に大切なのは、ミッション・ビジョン・バリューを実際の経営に落とし込むことです。
まず必要なのは、ビジョンにもとづいて具体的な目標を決めることです。
将来の姿だけでは、日々の行動にはつながりません。
中期の目標、今年の目標、部門ごとの目標、個人の目標へと落とし込むことが必要です。
また、会社の仕組みも連動させる必要があります。
たとえば、人事評価、採用、教育、会議の進め方、業務ルールなどが、ミッション・ビジョン・バリューとつながっていないと、結局は元のやり方に戻ってしまいます。
そして、順番も大切です。
理想を描くことは大事ですが、足元に大きな問題があるなら、まずそこから手をつける必要があります。
資金繰り、品質不良、納期遅れ、人手不足など、今すぐ対応すべき課題があるなら、そこを放置したままでは前に進みにくいからです。
さらに、最初から完璧を目指しすぎないことも重要です。
ミッション・ビジョン・バリューづくりは、一度で完成するものではありません。
実際に動かしながら見直し、必要に応じて修正していくものです。
環境は必ず変わります。
それでも、会社として目指す方向を見失わず、必要に応じてやり方を調整していくことが大切です。
言葉を飾るのではなく、実践し続けることが本当の意味での活用です。
まとめ
ミッションは、会社がなぜ存在するのかを示すものです。
ビジョンは、会社がどこを目指すのかを示すものです。
バリューは、そのためにどう行動するのかを示すものです。
この3つがそろうと、会社の方向性がはっきりし、社員の判断や行動もそろいやすくなります。
ただし、本当に大切なのは、立派な文言を作ることではありません。
社員に意味が伝わること、経営者自身が実践すること、そして会社の仕組みに落とし込むことです。
これからミッション・ビジョン・バリューを作る経営者の方は、ぜひ次の順番で考えてみてください。
- 自社は何のためにあるのか
- 将来どんな姿を目指すのか
- そのために何を大切にするのか
- どうやって社内に伝えるのか
- どうやって日々の実践につなげるのか
この5つまで考えてはじめて、ミッション・ビジョン・バリューは経営に役立つものになります。

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